あおりんごの凡ぶろぐ

美大を卒業した後、色々な経験を経て、現在は個人事業主&作家活動中

BTS 『Spring Day』 と現代アート

本日は16日ということで、アミ友がBTSの「Spring Day」という曲のMVを広めていたので、もう既にたくさんのMV考察が出回っていますが私の視点で考えてみようと思います。

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何故“16日=Spring Day“なのかというと、2014年4月16日に韓国で起きたセウォル号沈没事故に繋がります。

私も当時、この事故のニュースを毎日観ていた記憶が甦ります。
BTSメンバージョングクと同い年だったというもうすぐ卒業を控えた高校生たちの船旅でした。
船が傾き、船内放送では「動かないように」と指示をされ、海水が船に入って来て、本来責任を取るべき船長(正規社員ではない)や乗組員は真っ先に逃げ、残された者(学生や先生)は救助を待つも間に合わず亡くなった。というものだったと思います。
その間の学生がスマホで撮影したであろう船内の様子や、両親へのメッセージなどがニュースで流れ、心が痛んだことも覚えています。
この両親へのメッセージが「母さん、父さん、会いたいよ」というものでした。
日本語での詳しい説明は以下へどうぞ。

セウォル号沈没事故 - Wikipedia


後の2017年にBTSが出した曲が「Spring Day」でした。
BTSメンバーはこの曲がセウォル号から着想を得たということは公言していませんが、この事故の被害に遭われた方の惨事家族協議会へ匿名で1億ウォンの寄付などをしていることや、MVの表現などからやはりそうなのではないかと実しやかに囁かれています。

youtu.be



『 Spring  Day 』の歌詞日本語訳


会いたい こうやって
口にするからもっと会いたくなる
君たちの写真を
見ていても会いたい
無情すぎる時間
僕は僕たちが憎い
今じゃ一度顔を見ることさえ
難しくなった僕たちが
ここは一面冬しかない
8月にも冬が来る
心は時間を駆けていく
一人きりで残った雪国列車
君の手を握って地球の
反対側まで行って
冬を終わらせたい
恋しさが
どれぐらい雪のように降ったら
春の日がやって来るのだろう
Friend
虚空を漂う
小さな埃のように
小さな埃のように
舞う雪が僕なら
もう少し早く君の元へ
たどり着けるはずなのに
雪の花が舞い落ちる
また少しずつ遠ざかる
会いたい
会いたい
どれだけ待てば
さらにいくつの夜を明かせば
君に会えるだろう
巡り会えるだろう
寒い冬の終わりを越して
再び春の日が訪れる時まで
花を咲かせる時まで
もう少しそこに居て欲しい
居て欲しい
君が変わったのか
それとも僕が変わったのか
この瞬間 流れていく時間さえ憎い
僕たちが変わったんだよ
皆そんなもんだろう
そう 憎いよ 君が
君は離れて行ったけど
一日だって君を
忘れたことはなかった 僕は
直会いたいけど
このくらいで君を消すよ
その方が君を憎むよりは
まだ辛くないから
冷たい君に息を吹きかけてみる
煙のように 白い煙のように
口では消すと言っても
僕は実はまだ君を送り出せずにいるんだ
雪の花が舞い落ちる
また少しずつ遠ざかる
会いたい
会いたい
どれだけ待てば
さらにいくつの夜を明かせば
君に会えるだろう
巡り会えるだろう

You know it all

You're my best friend
朝はまた来るさ
どんな闇も どんな季節も
永遠に続きはしないから
桜の花が咲きそうだ
この冬も終わる
会いたい
会いたい
少しだけ待ったら
あといく日かの夜さえ明かしたら
会いに行くよ
迎えに行くよ
寒い冬の終わりを越して
再び春の日が訪れる時まで
花を咲かせる時まで
そこにもう少し居てほしい
居てほしい

 

さて、MVの考察については「オメラスから歩み去る人」というSF短編小説が元にされているのではないかという話です。
私はこの話を初めて知りました。
それは色んなところで語られているので、調べてみてください。
私もその本を調べてみようと思います。

それでは私の観点からのSpring Dayの考察をしていきたいと思います。

【歌詞】

ポゴシプタは会いたいという意味で何度も出てくる。
これは学生の残したメッセージのことにも、残された方達の心情にも取れる。
冬や雪の表現については、冷たい春の海のことを指すのかな。

【MV】

無音で雪の降り積もっている、もう使われていないだろう無人駅から映像は始まる。
Vが跪き、耳を線路に当て、忘れ去られた電車の音を聞くところから音楽が流れる。

電車が何度か出てくる。
韓国で「銀河鉄道の夜」が広まっているのかは不明ですが、私にはセウォル号タイタニック号の沈没事故が重なって見える。
銀河鉄道の夜の話には、タイタニック号の沈没事故で亡くなった家庭教師と2人の姉弟が出てきた。
彼らはびしょ濡れで乗車して来てジョバンニとカムパネルラに事の経緯を語り、ある駅で下車すると、亡者たちと列となり巨大な十字架が聳え立つ場所へ聖歌を歌いながら向かう。

ここで銀河鉄道の夜の読書経験が役立つとは。

aor1ngo.hateblo.jp



ジミンは海にて靴を拾い上げ、自分が履くわけでもなくMV中ずっと傍に置いており、最後までこの靴が出てくる。
海底から靴と共に彼等の魂を引き上げて電車の旅へ連れて行く。

ジンくんが中心にいてメンバーが螺旋階段をぐるぐる上るシーンについては終わらない思い出、走馬灯。
ここでジンくんが指で四角の形を作ったポーズを取る。
カメラで写真を撮る前に行うような指フレーム。

昼間グクのいる錆びた遊具のある場面は忘れ去られることの切なさ。
夜にライトアップされる遊具、グク固定、メンバーが動き回る映像は、生者の時間は刻々と動いて行くのに亡者はそこへ取り残されている様子。

メンバー全員が歯磨きをしたり、ピアスを開けたり、肩を借りて眠ったり、ワイワイしている場面は、事故の起こる前までの何気ない平和な日常。
ここでもVがジンくんと同じように指フレームを作る。
生きた証、思い出の描写。

花火がさしてあるケーキがテーブルに置いてあり、それをメンバー全員が無表情で見つめているシーンは、もう歳を取らないという意味にも取れる。

ランドリーにてジンくんが洗濯機の中で回る服を見つめる。
これは冷たい海の中に船と共に沈んでいった学生たちの表現かな。

シュガが大量の服の上で寝転んでいる。
これは美術に携わっている方ならご存知、今は亡き現代アート作家クリスチャン・ボルタンスキーの作品を彷彿とさせる。
こちらの画像は日本のアートイベントで行われたインスタレーション
解説には「およそ16トンもの膨大な古着の山。これらの衣服が、クレーンで無造作に掴み上げられ落とされる。人間の「生と死」「記憶」をテーマにした作品を発表し続けてきたボルタンスキーなられはのインスタレーション。」とある。
テーマとしても、なんだか重なるものがある。

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電車内をグクが駆け回り誰かを探していく。
抜けた通路でメンバー全員が集合し一緒に駆けて行った矢先、目の前をすごいスピードで電車が通り過ぎる。
その電車にはもう1人のグクが乗っており、走ってきたグクを見てハッと驚いた顔をする。
置いてきた大切な現実や過去の自分との決別。

グクとRMが電車内にて穏やかな表情で静かに目を閉じる。
祈り、死を受け入れているように見える。
グクのマッチをつける場面、一度目は火をつけては誰かに消され、二度目は逆再生で燃え尽きたマッチに火が灯る。

助かったかもしれない尊い命の灯火をを無責任な大人が消してしまい、もう二度と進むことも戻ることも出来ない。


グクが目を開くといつの間にか電車内にメンバー全員が乗っている。
これも銀河鉄道の夜に重なる描写。
ホビが寝ていたジミンに「もうすぐ到着するよ」と合図をして起こす。
ジミンが電車の扉を開き外へ出て手招きをする。
一面にうっすらと雪の残った草原にポツンと巨大な木が立っている。
メンバーが全員その木の方へ向かう。

ジミンがずっと傍に置いていた最初に海で拾った靴を木の枝に引っ掛ける。
調べてみると靴を木に引っ掛けることを海外では色んなサインとして使っているようで、その中でも一番近いものは卒業前の学生のことを思うと「卒業」のサインなのかな。
ただ調べたような知識などを全て取っ払って私がその映像から感じたことというなら「天国へ歩いて行った」という表現。

暖かい色の陽の光が一面を照らして終わる。

ここからはちょっと疑問だったこと。
セウォル号に乗っていた学生たちは、何故船から海に飛び出さなかったのかを考えました。
多分日本人だったら放送されても危険だと思ったら迷わず海に出て泳いで逃げたと思うんだよね。
日本では夏にプールの授業があったり、習い事としても水泳が人気だけど、韓国ではプールという施設も少なく、水泳の授業がないので泳げる人がほとんどいなくてプールや海は浸かるものだそうです。
そうなると確かに放送があってもなくても船から出られないわけです。
この事故により、韓国では水泳を習う人が増えたとか。

彼らの死が、誰かの生へと繋がりますように。
そして生者の私たちに出来ることはセウォル号沈没事故を忘れずに記憶を引き出し祈ること。
BTSのSpring Dayは彼らへの祈りの音楽としてこれからも聴き続けます。