あおりんごの凡ぶろぐ

美大を卒業した後、色々な経験を経て、現在は個人事業主&作家活動中

社会人になった美大生のその後

美大の友人たちは卒業後それぞれの道を進んでいる。
私のいた学科はファインアート系なのだが、ほとんどが会社への就職を選んだ。
なんやかんやで作家になったのは・・・・・うちの学科の同窓生では私くらい。
あとは音信不通か行方不明(卒業後は全員関わらないでくれ!と宣言した者もいる)。
今日はそんな個性溢れる同窓生がこっちの道(ものづくり)に戻ってきた話をしよう。

【S氏の場合】
私が個人事業主となりぼちぼちと制作をしていると、ものづくり系の会社へ就職したSと連絡を取るようになる。
そして話を聞いているとかなりの漆黒会社で働いているようだった。
更に「心身ともに疲れ過ぎてもう相性最悪の上司に逆らう気力もない」という。
私もある程度学んだからわかるけど、給料も有給も満足にもらえていない状況はどう聞いてもどう考えても違法でしかない。
Sの心は辞める方向に進んでいたので「まずは労基に相談しよう」と伝えた。
最初は「全てがどうでも良い・・・」という感じだったのだけど、辞めると決めてから少しずつ気力が戻ってきたようで労基にも相談しに行って、結局給料も有給もしっかりもらってから辞めていた。
その後、Sのパートナーの支えもあり、私とも少しずつ一緒に出かけたり、美味しいものを食べて心身共に回復していった。
何でもない日にSをイメージした花束を渡すととても喜んで家の花瓶に生けて花の名前も調べていた。
今は辞めた職場で得た経験を活かし、やる気に満ちた目で、私とはまた違う作家業を営んでいる。

【N氏の場合】
今年の秋の展示会に来てくれたN。
久しぶりに話してみると「仕事が辛く、何もしてないのに涙が出る」という。
これは心身ともに危険信号。
Nの話から「辞めたい」という意志を私は見逃さなかった。
私は「Nには辞めても問題のない環境がこれだけ揃っていて、その後は個人的にこう動ける可能性がある」ということを伝えた。
その3ヶ月後、Nは「仕事を辞めることにした」と教えてくれた。

仕事を辞めて落ち着いた頃、一緒に食事をすることに。
待ち合わせてから久々の再会を喜び、食事の時間までデパートをぶらつきながら世間話。
私:まずはゆっくりしよう。実家にも帰っていいし、ゴロゴロして、何にもしなくていいよ。
N:でもなんかしないといけないような気がしちゃって。ねぇいつ寝ていつ起きてる?
私:その時の予定や状況によるかな。
N:私今夜型になっちゃって、大丈夫かなって心配で。
私:うーん。Nが元々夜型だったのに無理して朝から仕事に行ってただけかもしれないし、今の心身の状態では夜型の生活がベストでこれからまた変わるのかもしれない。身体が今必要なことは全部知ってるんだから任せてれば良いんだよ。
N:そっか。

景色もサービスも最高なラウンジでとても贅沢なアフタヌーンティーをいただく。
富士山も街の景色も一望出来、ちょうど夕陽が沈んで夜のカーテンがひかれる頃。
私:夕陽が綺麗だねぇ。富士山も見えて最高。
N:本当だ。仕事を辞めてから、夕陽をしばらく見ていなかったことに気付いたよ。
私:夜遅くまで仕事してたんだね。仕事してると、なんてことない景色に感動もできなくなることもある。私も昔会社に勤めてた頃、勝手に涙が出てくるほど追い詰められていたことがあるからNの気持ちわかるんだよ。
N:そんな・・・・あおりんご(私)は自由の象徴であってほしい。辛い思いをしないでほしい。(泣きそうになっているN)
私:それは私からNにも思ってることだよ。今は何かに感動するとか心がなかなか動かないと思うけど、少しずつ動けるようになるから大丈夫。今はゆっくり休んで、なんでも時間を忘れて楽しんで。ほら、美味しいものまだまだたくさんあるから食べよう。夜景も綺麗だよ。

Nは元々花が好きで、私の展覧会の時にも花束を持ってきてくれたことを私は覚えていた。
なので、Nのくれた印象的な花も含めた明るく淡い色の花束を用意してラウンジに届けてもらっていた。
食事の最後に渡すととても驚き喜んでいた。
このように私たちはお互いに何でもない日を祝ったのだった。

 

私に出来ることは、このくらい。
あとはご家族やNのパートナーの協力、N自身で回復に進むしかない。
Nは今「何かしたいけど何も出来ない期間」みたい。
だけど一緒に歩いている中で、Nはどこでも作品チェックを欠かさなかった。
その内ものづくりの道に戻って来るんだろうなと私は確信していた。

【戻ってきちゃう人たち解説】

美大に行っても行かなくてもものづくり好きな人たちって大体“ものづくりをする癖がある“人たちなので、会社に勤めていようが、何しようが、どこ行こうが、何かきっかけがあるとつい作っちゃうんだよね。
どうにも逃れられない癖というか。
ものづくりの道に戻ってからは“本当にやりたいことは何なのか、本当に表現したいことは何なのか“を再び自分で考えていくことになる。
学校だけでは学べなかったけど、興味のあることも自由に探していく。
そうすると学生の頃にも、社会人だった頃にも、見えなかったはずの自分が見えてくる。
人生はいつだって何回でもやり直せるのだから大丈夫。
心身健康であればなんでも出来るよ。
美大生じゃなくたってそう。

つらいと思う状況にあるひとは、一度立ち止まって考えてみてほしい。
これから何十年とある人生、自分が本当は何をして生きたいのか。
何に心が動いたか。
自分の人生の本質は何なのか。

今週のお題ビフォーアフター